レガシーシステムにAIをどう活かす? 日本企業のための実践的アプローチ

日本企業にとって、レガシーシステムは「安定の象徴」である一方、変化のスピードに対応する上でのボトルネックにもなり得ます。
特に生成AIや自動化技術が急速に進化する中、システムを全面的に入れ替えるにはリスクが大きく、現実的な選択肢とは言えません。
本記事では、既存の基幹システムを活かしながら、AIを段階的に取り入れ、業務の価値と柔軟性を高める「壊さないモダナイゼーション」戦略を、CxO・IT部門の意思決定者向けにご紹介します。
目次
システム全面刷新が現実的でなくなった理由
日本では、金融、製造、物流業界を中心に、メインフレームやCOBOL、オンプレミスのカスタムシステムが今も稼働しており、企業の業務を支えています。
こうしたシステムの刷新に対し、「近代化=システムの全面置き換え」と捉えてしまうと、長期化・高コスト化・業務停止リスクなど、多くの問題に直面する可能性があります。
事例: ある大手保険会社では、保険契約管理の基幹システムをクラウドへ移行しようとしました。しかし、3年にわたるプロジェクトと数十億円規模の投資にもかかわらず、プロジェクトは中止となりました。長年の運用で形成された複雑なビジネスロジックの再現が困難であり、現場も新システムに適応できなかったためです。
この事例は、「古い=使えない」という認識が誤りであることを示しています。重要なのは、既存システムをどのように活かし、現代の業務要件に合わせて価値提供を強化するかという視点です。
ここでAIが果たす役割が注目されます。既存システムをそのまま活用しながら、AIを組み合わせることで、以下のような付加価値を加えることが可能です:
- 経営層向けに、レガシーデータを自然言語で要約するレポートを自動生成する
- 社内ユーザーが、AIチャットインターフェースを通じて業務データを簡単に検索できるようにする
- 夜間バッチ処理結果に対し、異常検知をAIで実装し、即座にアラート通知を行う
守るべきは「中核の安定性」、変えるべきは「価値の届け方」
AIは「周辺」から価値を生む

AI導入の成功には、「中核システムにAIを直接組み込む」のではなく、既存のインターフェースやデータフローと外部から連携させるという視点が必要です。
事例: ある大手物流企業では、AS/400上で稼働する受注管理システムを継続利用しつつ、以下のような取り組みを実施しました:
- 地方倉庫から届く手書き伝票をOCRとAIでデジタル化する
- AIが過去データに基づき内容を自動で検証・分類する
- 検証済みデータを既存の入力フォーマットでAS/400に取り込む
この結果、手入力作業を40%削減し、入力ミスも大幅に減少しました。システム本体には一切手を加えていません。
このように、以下のような領域でAIの価値を発揮できます:
- AIによるレポート要約
レガシーシステムのデータ出力を自然言語に変換し、意思決定を支援する
- AIチャット検索
担当者が自然言語で業務情報を検索できるチャット型インターフェースを提供する
- 事前処理・データ整備
入力前にAIでデータを分類・正規化し、品質向上と手作業削減を図る
ポイント: 中核には手を加えず、周辺から段階的に変えていくのが現実的なアプローチです。
日本企業で実践されているアーキテクチャ3選
AI導入にあたり、適切なアーキテクチャ設計が重要です。以下に、日本企業で実際に活用されている3つのモデルを紹介します。
- 外部AI連携層(AI Edge Layer)
CSVやAPI、ファイル連携などを通じて、AIを既存システムの外部レイヤーとして接続します。
事例: 地方銀行では、メインフレームで取引処理を行う一方で、毎日のCSVエクスポートデータをAIが分析し、不正取引の兆候を検出しています。アラートはMicrosoft Teamsを通じて即時通知されます。
この構成のメリット:
- システム本体を変更しない
- AIは非同期で安全に動作する
- 少ない投資で即効性のある効果が得られる
- RPA+AIの併用モデル
手書き処理やルーチン業務に対して、OCRとAIを組み合わせて自動化します。RPAと連携させて、既存システムへ安全にデータを投入します。
事例: 大手保険会社では、手書きの申請書類をOCRとAIでデータ化し、RPAでレガシーシステムに登録しています。
メリット:
- 手作業を大幅に削減できる
- システムの改修や再教育が不要である
- 部門単位でのスモールスタートが可能である
- デジタルツインによる業務再現(Digital Twin Shadowing)
本番環境に影響を与えず、AIの効果検証ができる業務のデジタル写しを構築します。
事例: 製造業では、ERPの生産レポート業務を別環境に再現し、AIで遅延予測を実施。有効と判断された結果のみ現場に共有しています。
メリット:
- 本番環境に影響を与えず安全に検証できる
- 部門間の信頼を徐々に構築できる
- 将来の刷新計画にも活用できる
これらのアーキテクチャは、「非侵襲型」「スケーラブル」「柔軟な展開」が可能であることが特徴です。
リスクを抑えてAIモダナイゼーションを主導する方法

AI導入を成功させるには、経営層が主導し、リスクを管理しながら段階的に進めることが重要です。以下にそのためのステップをまとめます。
- 低リスク・高可視性のユースケースから着手する
- レガシーレポートの要約自動化
- 経営層向けAIダッシュボード
- コールセンターログの自動分類
- クロスファンクショナルなチーム体制を構築する
- レガシーシステムの担当者
- AIやデータサイエンスの専門家
- セキュリティや内部統制の責任者
- 技術指標ではなくビジネス成果で効果を測定する
- 手作業削減率
- 顧客対応スピードの向上
- エラー率の低下など
事例: 物流企業では、クレーム分類をAIで自動化。精度は完璧でなくても、作業時間を60%短縮し、業務効率が大幅に向上しました。
- 既存システムとの並行稼働で段階的に展開する
AIはまず既存システムと併用で導入し、RPAやファイル連携など業務に馴染みやすい手法を活用します。
- 初期段階からガバナンス体制を整備する
データの利用ルールや出力の説明可能性、責任範囲の明確化を初期段階で整備し、日本企業のガバナンス基準にも適合させます。
まとめ
今、多くの日本企業が直面しているのは、「安定したレガシーシステムを守りながら、どうAIを活用して新しい価値を創出していくか」という問いです。答えは、“すべてを変える”ことではなく、“いまある強みを活かして、一歩ずつ未来に向かう”ことです。
CMC Japanでは、こうした課題に直面する企業の皆様とともに、レガシー環境に最適なAI活用のロードマップを描き、現場に根ざした形での実装をご支援しています。
「まずは何から始めればいいのか?」という段階でも構いません。貴社の状況に合わせた最適なアプローチをご提案いたします。