金融クラウド化

金融業界におけるクラウド化とは?リスクや事例を紹介

金融業界は、個人情報やお金を最も扱う業界であると言っても過言ではありません。そのため、他の業界と比べて、厳格な規制が存在し、高いセキュリティレベルが求められます。万が一、顧客情報の流出やハッキング被害が発生した際には、法律に基づいて厳しい行政処分が下されるため、簡単にクラウド化が進められないという現状があります。


本記事では、金融機関がクラウド化に踏み切れない理由やクラウド化のメリット、4つのクラウド導入事例について解説していきます。

目次

金融業界でクラウド化が簡単に進まない理由

金融業界においてクラウド化が簡単に進まない理由は、主に金融庁やFISC(金融情報システムセンター)の規制やガイドライン、そして業界固有のセキュリティ要件に起因します。金融業界は、他の業界と比較して情報セキュリティやプライバシーの要件が厳格であるため、クラウドサービスへの移行が他業界ほど容易ではありません。

 

金融庁は、金融機関がクラウドサービスを利用する際の基本方針やリスク管理に関する指針を定めています。金融庁の指針によれば、金融機関はクラウドサービスの利用に伴うリスクを十分に把握し、適切な管理対策を講じなければなりません。このため、金融機関はシステムのクラウド化に際し、慎重な判断が求められるのです。

 

また、FISCは金融機関向けにセキュリティガイドラインを提供しており、これらのガイドラインは金融業界のクラウド化において重要な役割を果たしています。FISCガイドラインは、金融機関がクラウドサービスを利用する際に遵守すべきセキュリティ対策を定めており、特に顧客情報や取引データの保護が非常に重要であり、クラウドサービスプロバイダーがこれらのデータを適切に保護できるかどうかが重要な懸念事項となります。

 

加えて、金融業界ではシステムの信頼性や可用性が非常に重要であるため、クラウドサービスへの移行はリスクを伴います。金融機関は、サービス停止やデータ損失などのリスクを最小限に抑えるため、移行プロセスに細心の注意を払わなければなりません。このため、金融業界におけるクラウド化は慎重かつ段階的に進められることが一般的です。

金融システムをクラウド化するメリット

金融業界では、さまざまなシステムがクラウド化の対象となります。例えば、顧客管理システム、資産運用システム、リスク管理システム、決済システム、レポート作成やデータ分析のためのBI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどがクラウド化の対象として考えられます。

 

これらのシステムをクラウド化するメリットとしては、まずコスト削減が挙げられます。クラウド化により、インフラストラクチャの設置や運用にかかる費用を削減できるため、金融機関はより効率的に運営できるようになります。また、クラウドサービスはスケーラビリティが高いため、システムの拡張や縮小が容易に行えます。これにより、金融機関は柔軟にビジネスニーズに対応することができます。

 

さらに、クラウドサービスプロバイダーは専門的なセキュリティ対策を講じており、金融機関はこれらの対策を利用することで自社のセキュリティ体制を強化することができます。また、クラウドサービスを利用することで、システムのバックアップや復旧が容易になり、災害時などのリスク対策が向上します。

金融機関におけるクラウド導入事例

最後に、金融機関によるクラウド導入事例を4つご紹介します。

みずほ銀行

みずほ銀行はIBMとGoogleと提携し、IBMのクラウド・サービスとGoogle Cloud Platform(GCP)を活用してデータセンターの運用を行っています。このクラウド導入により、システムの効率化とデータセンターのコスト削減が実現されました。さらに、これにより銀行はデータ分析やAI技術を活用して、顧客に対するサービスの向上や新たな金融サービスの開発を進めています。また、クラウド導入に伴い、みずほ銀行は組織改革やデジタル人材の育成にも力を入れており、全体的なデジタルトランスフォーメーションが進んでいます。

三井住友銀行

三井住友銀行は、Amazon Web Service(AWS)と提携し、クラウド技術を導入しています。AWSを活用することで、システム基盤の再構築が可能となり、データ処理能力が向上しました。また、金融サービスのイノベーションが促進されており、顧客向けの新しいサービス開発や、従来のシステムとの連携が容易になっています。さらに、三井住友銀行はクラウド技術を活用して、オープンAPIやデータ連携などの新たな取り組みを進めており、外部企業との協業を通じて新しい金融サービスを展開しています。

ソニー銀行

ソニー銀行は、インターネット専業銀行として2001年に設立され、2013年にAWSの導入を決定しました。クラウド化は当初、周辺システムからスタートし、2019年10月には一部の勘定系システムもAWSへ移行しました。さらに、2018年から次世代勘定系システムの構築を検討し、本番環境での稼働を目指しています。

2018年にAWSが大阪にデータセンターを設置したことが、可用性や耐障害性向上のきっかけとなりました。2020年7月時点で、ソニー銀行のシステムの約80%がAWSで稼働し、コスト削減やリードタイムの短縮が実現しました。さらに、システム開発や運用の人材を顧客ニーズへの対応や新サービス開発に振り向けることができました。

ソニー銀行は、FISCや金融庁のガイドライン改訂や、クラウドサービスの最新情報を把握することで、最適な運用方法を探求しています。また、内部環境では、クラウド利用を前提としたガバナンス体制を構築し、具体的な社内規定を設定しています。

 

住信SBIネット銀行

住信SBIネット銀行は、三井住友信託銀行とSBIホールディングスが共同出資し、2007年に設立されたオンライン銀行です。2013年からAWSの活用を開始し、2017年には本格的なAWS利用が始まりました。2020年1月には、インターネットバンキングシステムのデータベースをAWSへ移行し、今後、膨大な量のデータを扱うサービス開発にクラウドの活用が進むと予想されます。実際に、コスト削減や迅速な顧客対応が実現され、システム導入までのリードタイムが短縮しました。

同行は、クラウド事業者と金融機関の責任範囲、クラウドサービスの詳細、データの価値やクラウド化による利益を理解し、顧客に伝えることに重点を置いています。さらに、社内でCCoC(Cloud Center of Excellence)というクラウド利用の専門組織を設立し、全社的なクラウド推進のためのガバナンス体制を強化しています。

まとめ

金融業界には、金融庁やFISCによる厳しいガイドラインという業界固有の高いハードルがあり、他業界と比べ、システムのクラウド化はゆっくり慎重に進められる傾向にあります。ただし、事例からもわかるようにデジタル社会に柔軟に対応するシステムに移行するために、民官で連携し、着実にクラウド化が進んでいることもうかがえます。

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