The-Rise-of-Chatbots-in-Healthcare

医療業界におけるチャットボットの利活用

ヘルスケア業界では、全ての判断が人の命に関わる可能性があり、膨大なデータから慎重かつ迅速に決断を下すことが求められる場面が多くあります。そのため、自動化できる部分は自動化することができれば、同じ時間・リソースの中でより多くの命が救える可能性が出てくるわけです。   

その自動化ツールとして注目を浴びているのがチャットボットです。すでに、今日のヘルスケア業界のあらゆるところでチャットボットを活用した自動化が促進されています。本記事では、 “現在” の医療現場におけるチャットボットの使われ方そしてテクノロジーが発達した近い “将来” 実現される医療業界におけるチャットボットの使われ方についてご紹介します。

Table of Contents

日本の医療機関が抱えている3つの課題

次に、医療業界の現状課題について3つご紹介します。  

課題①医療人材不足

厚生労働省の「労働経済動向調査」によると、医療業界は他の調査対象業界の平均と比べ、人材不足が顕著であることがわかっています。以下のグラフは、各業界の対象事業所に現在人材が「不足」しているのか「過剰」であるのかについてアンケートを取り、「人材不足」から「人材過剰」を引いた結果を示しています。このグラフから、どの業界も人材は不足しているが、とりわけ医療・福祉業界は足りていないことがわかります。  

さらに、OECD(経済協力開発機構)が公表している加盟国38か国の医療状況データのうち、「1000人当たりの医師数」の項目で、日本は27位で「2.49人」と1位で「5.36人」のオーストラリア半分と医師数も不足していることがわかります。  

このように、医療人員の不足は明らかであり、これは1人当たりの業務量や負担の増大を意味します。人の命を扱うこの業界において、長時間労働や幅広い業務はミスを助長し、最悪の場合、医療事故につながるケースも考えられます。そのため、特に医療業界では、人命に関わる重要な業務に専念するために、一部の業務をチャットボットで効率化、自動化することが求められます。

課題②きりのないノンコア業務

課題①でも少し触れたように、医療機関の特に受付スタッフの業務の中には、「人命に直結する(コア)業務」と「人命に直結しない(ノンコア)業務」の2つのタイプが考えられます。 

例えば、コア業務には、患者さんの検査データをカルテに入力したり、検査結果伝票をカルテに貼り付ける作業を含む「データ整理業務」があります。それらは、診察で必要な時にすぐ出せるように整理しておかなければなりません。また、入力内容にミスがあれば、それこそ医療事故につながりかねません。そのため、データ整理業務は重要な業務の1つであり、より時間をかけて慎重に取り組むべきタスクであると言えます。 

一方で、人命に直結しないノンコア業務も多く抱えています。例えば、電話対応(お問合せ、質問など)・受付業務・会計業務・処方箋発行業務など、医療機関を運営するためには欠かせない業務です。課題①でも言及した通り、深刻な人手不足問題を抱えている医療機関のスタッフにとって、これらの業務を全てこなすのは、肉体的・精神的に非常に大きな負荷がかかります。ノンコア業務が膨大だからといって、コア業務をおろそかにしてはいけない医療業界では、いかにノンコア業務を効率化・自動化できるかが肝になるというわけです。  

チャットボットは、医療スタッフをこれらの業務から開放するための1つのソリューションになることは間違いないでしょう。

課題③長い待ち時間

こちらの課題も改善すべき医療機関の課題の1つです。患者さんが受付を済ましてから医師の診療までの待ち時間が長いと、患者さんの負担になるだけでなく、院内感染のリスクを高めてしまいます。  

また、患者さんの中には、症状の軽い人もいれば、症状が重い人も含まれており、医療機関としては平等に、来院した順番通りに診察をしたいところですが、やむを得ず優先順位をつけなければならないケースもあるでしょう。 

そこで、予約や事前問診票、順番待ちカードの発行などを状況に合わせて対応してくれるチャットボットを導入することができれば、深刻な症状がある患者さんの待ち時間を最適化し、症状の悪化を防げるかもしれません。

チャットボットは医療業界をどう役立つのか

前項では、医療業界における3つの課題についてご紹介しました。ここでは、それらの課題の改善に向けて、チャットボットをどのように貢献できるのかについてご紹介します。  

ノンコア業務の代替

チャットボットをノンコア業務に活用することで、人間の業務を代替してもらうことができるでしょう。ここでは、医療機関の受付スタッフが抱えている予約業務・受付業務の自動化についてご紹介します。  

「予約業務」

予約業務においては、医療機関の専用アプリやWebサイトにチャットボットを導入することで、来院の予約まで自動化することが可能です。これにより、電話による予約が減り、そこに割いていたスタッフのリソースを他のより重要な業務に向けることが可能になります。RPAと連携すれば、予約カレンダーを参照して予約を取ったり、過去の患者情報をもとに通院状況に応じた柔軟な対応を行うことも可能です。また、チャットボットは人間と異なり、一度に複数人の対応が可能であるため、患者さんにとっても、電話がつながらないことへのストレス軽減というメリットも考えられます。  

「受付業務」

予約業務は患者さんが来院する前の業務とすると、受付業務は来院後の業務となります。チャットボットは、この受付業務も代替することができるでしょう。例えば、アプリや専用デバイスなどを通じて順番待ちカードを発行したり、問診票の記入を促してくれたりします。こちらの業務もチャットボットに代替することができれば、受付スタッフは人間にしかできない患者さんとの対面によるケアなどをおこなうことができ、それは、患者さんの不安を和らげるだけでなく、サービス満足度の向上にもつながるでしょう。  

簡単な問診・オンライン相談窓口

病院にかかる患者さんには、2つのタイプに分けられます。明確で重症を抱えている患者さんと、身体にちょっとした違和感や異変を覚えたことからくる不安を抱えている患者さんです。後者のケースは、過去の医療データを学習させ、簡単な問診ができるように開発したチャットボットを導入することで、来院せずに不安が解消することができるかもしれません。そうすることで、来院者の絶対数が減り、医師や医療スタッフのリソースをより重篤な患者さんへの対応に時間を割くことができるだけでなく、待ち時間の解消にもつながるでしょう。   

日本の医療業界における今日のチャットボット利用状況は、受付スタッフが抱えている予約業務や受付業務などのノンコア業務、簡単な問診・オンライン相談窓口などがメインです。つまり、現在は「業務効率化による医療人員の負担軽減」および「待ち時間の減少などによる(心理的な)顧客満足度の向上」を目的としたチャットボットの導入であると言えます。  

参考になる海外事例としてBabylon Healthをご紹介します。Babylon Healthは、イギリス発のヘルスケアスタートアップであり、患者に医師および医療専門家との遠隔相談を提供しています。同社は、遠隔で診断するプラットフォームにより、必要に応じて医療専門家の紹介や薬の処方箋の郵送などを行っています。 

イギリスの国民は、国民保健サービス(National Health Service、通称NHS)により、原則無料で医療サービスを受けることができ、緊急時を除き診察はGPと呼ばれるかかりつけ医により行われます。

そこで、Babylon Healthは、GP at handという24時間年中無休で利用可能なチャットボットによる医療診断、オンライン診断、対面診断予約サービスの提供を開始しました。AIチャットボットの導入により、GPの負担を軽減し、最大数週間かかる予約を2時間まで減らすことに成功しています。

さらに、1,671の症例の設問に対してBabylon HealthのアルゴリズムはGPよりも優れた数値を記録しました。具体的には、GPが出した平均スコア71.4%に対しBabylon Healthは77.6%のスコアを記録しました。

この事例からも、従来のヘルスケアサービスと比較し、AIチャットボットを用いたヘルスケアサービスは、医療専門家の負担を軽減するだけでなく、迅速かつ正確な医療サービスの提供を実現していることがデータからもわかっています。

医療分野におけるチャットボット活用の未来

上述したように、現在の医療分野におけるチャットボットの活用は主に、受付スタッフの業務効率化および患者さんの心理的負担の軽減といった目的に限定されています。今後AI技術や5Gネットワークの発達に伴い、チャットボットもより複雑かつ迅速に幅広い業務を代替してくれるようになるでしょう。特に「より多くの人の命を守る」という医療業界の目的をサポートする強力なアシスタントになることが期待されています。 

近い将来、医療業界では以下のようなチャットボットの活用方法が予想されています。

迅速な情報提供

医療現場において、一刻を争う場面が多くあります。想定されていないケースが発生したとき、人間だとミスが起こりがちです。似たような名前でも、作用が真逆という薬品があった際に、誤って選択をし、医療事故につながったケースは少なくありません。近い将来、大量のデータベースから数秒という短い時間で、かつ正確に必要な情報提供ができるようなチャットボットが導入されれば、医師の判断と行動の速度が加速し、より多くの命が救える可能性が高まります。具体的には、患者さんの容態が急変した際に、病歴や現在の病気、薬のアレルギー、検査診断結果、日々の観察記録などを瞬時に示すことができるようになるでしょう。

アメリカのユナイテッドヘルスケアグループ(UnitedHealth Group, Inc.) は、患者データを収集し、カスタマイズされたソリューションを提供するチャットボットを用いたAI仮想アシスタントプラットフォームAgent Virtual Assistant(略して AVA)を提供しています

同社は、テクノロジー事業を主要事業とする子会社Optumを通じて、機械学習、自然言語処理モデル、データ分析を使用して、患者の問題の説明と実証済みの改善された結果に基づく解決策を照合するようにシステムをトレーニングしており、年間50億ドルを超えるデータおよびテクノロジーへの投資を行っています。

AVAに搭載されているAIチャットボットは、患者の質問に数秒で効果的に回答し、患者からのいくつかの基本的な質問に非常に冷静に対応する会話機能が含まれています。 

高度なデータ管理

近い将来、カルテや処方箋の管理を完全にチャットボットに任せることで、膨大な資料をプラットフォーム内で管理し、必要な時にすぐ取り出せるような状態にすることが可能になるでしょう。これにより、紙媒体で管理する場合に起きうる書類の紛失などによる情報漏洩を防ぐことができるとともに、医療スタッフの業務効率化を図ることもできるでしょう。  

高度な提案

前項でご紹介したように、現在チャットボットによる簡単な問診が可能です。病院に行くことなく、Webサイトや専用のアプリを通して、トレーニングされたAI(人工知能)が過去の診断データをもとに患者さんの症状や病状を簡単にオンライン上で診断することができます。また、チャットボットが対応できない症状である場合は、医療機関に患者さんのデータを共有し、対面での受診を勧めることもできるでしょう。

さらに、今後は、診断結果をもとに、具体的な治療プランや投薬が必要であるのかどうかなど、過去のデータベースから、医師が行うようなより高度な提案まで担えるようになることが予想されています。

多言語サポート

なにか病気を患ったとき、母国語による医療サービスを受けたいと思うのは当然のことです。母国語でない場合、症状が本当に伝わっているのか不安ですし、伝達にミスが生じれば、効果的な治療が受けられないかもしれません。他言語対応のチャットボットの登場により、どの国・地域にいても母国語で最先端の医療サービスやアドバイスを受けることができるようになるかもしれません。

例えば、米国サンフランシスコに本拠を置くヘルスケアベンチャー企業Senselyは、32か国語に対応しているバーチャルアシスタントを提供しています本バーチャルアシスタントは、症状チェック機能、診断予約、症状について調べることができるヘルスケアライブラリーなどの機能が含まれます。日本においても楽天と提携することで日本語に対応しており、今後対応言語をさらに拡充していく予定です。 
 

まとめ

以上のことから、現在のヘルスケア業界では、①医療人材不足②きりのないノンコア業務③長い待ち時間という課題に解決する形で「受付業務」や「予約業務」、「簡単な問診やオンライン相談」機能を備えたチャットボットの導入が進んでいます。また、世界の大手ヘルスケア企業やスタートアップ企業がサービスにAIチャットサービスを取り入れ、ユーザー・医療専門家の両者にとって明確なメリットを提供し始めています。今後は、AI(人工知能)のさらなる発展により、高度な患者データ管理、一刻を争う医療現場における迅速な情報提供、過去データに基づく治療プランの提案まで、より医師をサポートするような成長を遂げていくでしょう。  

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