2025年の経験が示した、日本企業DXの3つの学び
前回の記事では、2025年のDX環境に生じた大きな変化を整理しました。本稿では、それらの変化の中で企業が実際の取り組みから得た「3つの主要な学び」をまとめます。これらは業界を問わず共通して観察された傾向であり、2026年以降のDXロードマップを考える際の重要な視点となります。
目次
技術よりも“運用成熟度”がDX成果を左右した
2025年の特徴的なポイント:
- AI・LLMの本格運用が進む一方、それを支える運用基盤の未整備が課題に
- DevOps・テスト自動化・データガバナンスの成熟度が効果に直結
- 技術採用より「運用の再設計」に踏み込んだ企業が成果を上げた
AI導入を進めたある企業では、部門ごとに文書形式が異なり、更新ルールも統一されていなかったため、AIの回答品質が安定しませんでした。技術の高度化ではなく、文書管理・権限設定・ワークフローを整える取り組みを優先した結果、AI活用が軌道に乗り始めました。
クラウド移行の現場でも、基盤そのものは整備されていても、テストやリリースプロセスが属人化しているために価値が十分に発揮されないケースが多く見られました。2025年はこうした“運用面の弱さ”が可視化された年であり、技術選定以上に運用改善が成果に影響することが明確になりました。
要点:
- DXの成功は「高度な技術」よりも「運用体制の成熟度」に依存
- 裏側の仕組み(QA・DevOps・データ管理)が整うほど効果が安定する
領域を広げるより、優先順位を絞った企業が前に進んだ
2025年に顕著だった課題:
- DXテーマが増えすぎ、リソースが分散
- 各部門が独自に進め、全体最適が損なわれる
- 「着手したが完了しないプロジェクト」が積み上がる
ある企業では、10以上のDXテーマが並行して進み、調整コストが増加し、どれも十分な進捗が得られない状況が続いていました。全プロジェクトを再評価し、事業影響・実現可能性・データ基盤との整合性を基準に4件へ絞り込む判断を行ったところ、スピードと品質が大きく改善しました。
このような事例は2025年に特に増えました。取り組み範囲を広げれば成果に近づくわけではなく、むしろ「優先順位の明確化」がDX推進の前提条件となっていることを示しています。
要点:
- 多くのテーマに手を広げるほど成果は薄まる
- 絞り込みと優先順位付けが、DXの推進力を生む
アーキテクチャとデータ整備はDXの“前提条件”として重要性が高まった
2025年の現場で見えた実態:
- AI・自動化を進めたいが、既存システムがAPI化されていない
- モノリシックな構造がクラウドネイティブ化の妨げに
- データが部門ごとに分散し、同じ指標でも値が異なる
AIによる自動化を検討した企業では、既存システムが外部連携を想定しておらず、AI活用の前にアーキテクチャの分割作業が必要となりました。また、データ定義の不一致が意思決定の混乱を招き、結果としてAI導入よりも先にデータ統合が優先されることになりました。
DXが高度化するほど、基盤の不整備が表面化し、技術導入そのものを阻害します。2025年を通じて、アーキテクチャとデータは「整備できれば望ましい」ではなく「整備しなければDXが成立しない」という位置づけに変わりつつあります。
要点:
- AI・自動化・クラウドの効果は基盤整備によって左右される
- アーキテクチャとデータは“後から整える”のではなく“先に整える”
現場から得られた視点
CMC Japanが支援した各種プロジェクトでも、2025年に多くの企業が直面した課題は共通していました。運用基盤の整備、取り組む領域の優先順位付け、そしてアーキテクチャとデータの見直しに計画的に取り組んだ企業ほど、DXの成果が安定し、継続的な改善がしやすくなっています。日本市場特有の品質要求や運用文化を踏まえながら体制を構築することが、変革を着実に前へ進めるうえで重要な要素であることも、現場を通じて改めて確認できました。
2025年は、DXを実行段階で進める際に浮かび上がる基盤的なテーマが一段と鮮明になった年でした。運用成熟度、優先順位、基盤整備という三つの観点は、2026年以降の戦略を構築するうえで避けて通れない論点です。これらを段階的に整えながら、技術と組織の両面からDXを進めていくことが、持続的な価値創出につながります。
ともに検討したい方へ
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