上流工程

システム開発の上流工程を詳しく解説|各プロセスの具体的な内容とは?

システム開発の品質は、上流工程の品質で決まると言っても過言ではありません。上流工程は地図のようなもので、地図が間違っていれば、船は目的地にたどり着くことができないでしょう。システム開発の上流工程には、ビジネス要件のヒアリング、要件定義、システム設計が含まれます。このプロセスの質を高めることで、出来上がるシステムの質も高まります。本記事では、システム開発の流れ、上流工程における各プロセスの具体的な内容、上流工程エンジニアに求められるスキルなどについてご紹介します。

目次

1.システム開発の上流工程とは

まず初めに、システム開発の上流工程とは何か、どこまでが上流工程に含まれるのかについてご紹介します。その前に、システム開発の流れを確認しましょう。システム開発の一般的な流れは以下の通りです。

システム開発の流れ

・要件定義

・設計

・実装

・テスト

・デプロイ

・メンテナンス

システム開発は主に上の6つの大きなプロセスから構成されています。

一般的に、システム開発の上流工程とは、「顧客のビジネス要件をもとにした要件定義やシステムの基本設計までの初期段階」のことを指します。

具体的には、顧客のステークホルダーなどからビジネス課題をヒアリングし、それらを解決できるシステムとはどういったものである必要があるのか(機能、品質、セキュリティ)を定義します。

また、要件定義をもとにシステムのより詳細かつ全体的な設計を実施します。これらのプロセスの詳細については、次項で説明します。

2.上流工程の各ステップの具体的な内容とは

以下では、上流工程における各ステップの詳細をご紹介します。全てのプロジェクトにおいて以下のステップを踏むというわけではなく、プロジェクトにより異なる場合が多いです。一例として参考にしていただければ幸いです。ここでは、「ビジネス要件の収集」、「要件定義」、「システム設計」、「計画・見積もり」の4つのプロセスにわけてご紹介します。

ビジネス要件の収集

開発するシステムの要件を定義するためにも、まず、顧客のビジネス要件を収集する必要があります。

ビジネス要件の収集は、システム開発の上流工程において最も重要な工程の一つです。この工程では、開発するシステムの目的や必要な機能、性能、品質などをビジネスの視点から明確に定義することが求められます。

ビジネス要件の収集は、プロジェクトチームとビジネス部門とのコミュニケーションを促進し、ビジネス目標を理解し、ビジネス要件を明確にすることで、システム開発プロジェクトを成功に導くための大きな一歩となります。

ビジネス要件を収集するためには、以下のような手順を踏むことが一般的です。

ステークホルダーの特定
ビジネス要件を収集する前に、プロジェクトに関係する全てのステークホルダーを把握する必要があります。ステークホルダーには、プロジェクトの顧客、エンドユーザー、プロジェクトマネージャー、開発チームなどが含まれます。ステークホルダーの立場やニーズを理解することで、ビジネス要件を正確に把握することができます。また、ビジネス目標や要件についての情報を入手するためのコミュニケーション手段を確立します。

ビジネス目標の把握
ビジネス要件の収集にあたって、ビジネス目標を把握することが重要です。ビジネス目標は、システムが達成すべきビジネス上の目的や目標であり、ビジネス要件を設定する上での中心となります。プロジェクトのビジネス目標を理解することで、ビジネス要件を定義し、開発チームに伝えることができます。

要件の収集
ステークホルダーからビジネス要件を収集するために、インタビューやヒアリング、ワークショップ、アンケート調査などの手法を用います。また、既存の文書や業務フローの分析、競合製品の分析なども行います。

要件の整理
収集した要件を整理し、優先順位や関連性などを評価します。当然のことではありますが、収集したビジネス要件の全てが同じ優先度というわけではありません。ビジネス要件を優先順位付けすることで、開発チームが最初に取り組むべき要件を決定し、プロジェクトの成功につなげることができます。優先順位付けは、ステークホルダーとの協議を通じて行うことができます。また、必要に応じて、追加の調査や検討を行い、要件を更新します。

要件の文書化
ビジネス要件をドキュメント化することで、開発チームがシステムを正確に開発することが可能になります。要件をドキュメント化することで、開発チームやステークホルダーが後から確認することができ、要件変更にも対応しやすくなります。また、開発チームやステークホルダー以外の関係者にも共有することで、プロジェクトの進捗状況を報告することができます。

以上のことから、ビジネス要件の収集には、ステークホルダーとのコミュニケーション能力や要件収集技術が求められます。また、ビジネス要件の収集がうまくいかないと、後の工程での品質低下やコスト増大などの問題が発生する可能性があるため、重要な作業であることがわかります。

要件定義

システム開発の上流工程における要件定義は、ビジネス要件をベースに、システムの機能、性能、品質、セキュリティなどを明確に定義する工程です。システムの利用者や関係者とのコミュニケーションを通じて、これらを明確にし、文書化することが目的になります。そのため、要件定義はシステム開発プロジェクトの成功に不可欠な工程の一つと言えます。

要件定義には、以下のようなプロセスが含まれます。

要件分析および整理
ビジネス要件収集プロセスで集めた情報を分析し、必要な機能や性能、品質などを洗い出します。要件分析では、利用者や関係者の要件や業務プロセスの要件、システムの機能要件や性能要件、品質要件などを整理します。必要な要件だけでなく、不要な要件も除外することで、開発効率の向上やコスト削減につながります。また、優先度や依存関係なども同時に検討します。

要件仕様書の作成
要件分析で整理された要件をもとに、要件仕様書を作成します。要件仕様書には、システムの機能要件や性能要件、品質要件などが明確に定義されます。また、仕様書の形式や言語、用語集なども決められます。

このプロセスで重要な要素として、「完全性」、「一意性」、「可視性」の3つが挙げられます。

「完全性」とは、要件仕様書に記載する要件が、ユーザーからの要望やシステム利用者、開発者からの要件をすべて網羅している状態にすることです。

「一意性」を確保することは、要件の重複やあいまいな表現がないようにすることであり、後で不具合の原因を特定する際に問題が生じる可能性を低減することにつながります。明確かつ矛盾のないように記載する必要があります。

「可視性」を高めることは、誰でも理解しやすいように記述することです。そのために、図表やテーブルを活用したり、用語の統一性を保ったり、不明確な箇所には補足説明を加えるなどの工夫をします。

要件レビュー
要件仕様書をレビューし、誤りや不備がないかを確認します。レビューには、利用者や関係者、開発チーム、品質管理担当者などが参加することがあります。レビューで発見された誤りや不備は、要件仕様書に反映され、修正が行われます。

以上のことから、要件定義には、要件分析やドキュメント作成が最終目標ではありますが、それだけでは十分ではないことがわかります。要件定義は、ビジネス要件を理解し、それをシステムに反映することが重要です。そのため、顧客やステークホルダーと密接に協力し、要件定義のプロセスに関与させることが必要です。これにより、要件定義の精度や完全性が向上し、システム開発プロジェクトの成功確率が高まると考えられます。

また、要件定義はシステム開発プロジェクトの上流工程であるため、要件定義に失敗すると後の工程に悪影響が及ぶことがあります。そのため、要件定義を正確かつ完全に実施することが重要であり、開発チーム全体がこの工程に十分な注意を払う必要があります。

システム設計

システム開発の上流工程における「システム設計」とは、要件定義や設計仕様書を基に、システム全体のアーキテクチャや構造、ハードウェア・ソフトウェアなどの選定を行い、システムの全体像を設計することを指します。以下に、よく行われるシステム設計のプロセスと、各ステップでの主なタスクを説明します。

アーキテクチャの設計
システムの全体的な構成を設計します。このプロセスでは、システムの各コンポーネントの役割や相互関係を明確にし、システムの全体像を設計します。また、システムの可用性や拡張性、信頼性などの要素を考慮しながら、システムのアーキテクチャを設計します。

ソフトウェア設計
システムのソフトウェア部分の詳細設計を行うステップです。アーキテクチャ設計で決定されたシステム構成要素に基づき、機能やプログラムの設計を行います。このステップでは、設計に必要なツールやモジュールを選定し、開発環境の設定も行います。

ハードウェア設計
システムのハードウェア部分の設計を行うステップです。アーキテクチャ設計で決定されたシステム構成要素に基づき、サーバやネットワーク機器などのハードウェアを選定します。また、ハードウェアの構成やセキュリティ対策の設計も行います。

インフラ設計
システムが動作するために必要なインフラストラクチャの設計を行うステップです。アーキテクチャ設計やハードウェア設計で決定されたシステム構成要素に基づき、OSやDBMS、Webサーバなどのインフラストラクチャを選定し、設計します。

データベース設計
システムのデータベース設計を行うステップです。ソフトウェア設計で決定されたデータベースのテーブルやフィールドなどを設計し、物理的なデータベースの構成やインデックスなども設計します。

インタフェース設計
システムのユーザーインタフェース(UI)の設計を行うステップです。UIのレイアウトやコンポーネントの配置、デザインなどを設計し、ユーザーが操作しやすいUIを構築します。

セキュリティ設計
システムのセキュリティ対策の設計を行うステップです。セキュリティリスクの評価を行い、適切なセキュリティ対策を設計します。例えば、認証や暗号化などの技術的対策や、物理的なセキュリティ対策などがあります。

テスト設計
システムのテストの設計を行うステップです。テスト項目やテストデータの設計、テストの自動化などを行います。

ドキュメント設計
システムの設計仕様書やマニュアル、ユーザーガイドなどのドキュメントの設計を行うステップです。システムの全体像や機能、操作方法などを明確にすることで、システムの利用者や開発者の理解を深めることができます。

システム設計は、システムの正確な動作に必要不可欠なプロセスであり、システムの品質や保守性に影響を与えます。システム設計においては、システムの要件定義やアーキテクチャを踏まえたうえで、技術的な側面や業務のニーズ、ビジネス上の要件などをバランスよく考慮することが重要です。

また、システム設計では、可読性や保守性の高いコードの実現、システムの機能や要件変更に対応するための柔軟性や拡張性の確保など、長期的な観点からシステムの品質やメンテナンス性を担保する設計が求められます。

一方、システム設計においては、早期に問題を発見し、解決することが重要です。問題が発生した場合には、要件や設計の見直しを行い、必要に応じて設計書やドキュメントの更新を行います。

総合的に考えると、システム設計はシステム開発において重要な上流工程の一つであり、要件定義からシステム開発の実装・テストにつながる大きな橋渡しを担う役割を持っています。

計画・見積もり

計画と見積もりは、プロジェクトチームがソフトウェアシステムの提供に必要な範囲、タイムライン、リソース、および予算を特定する重要なプロセスです。

計画と見積もりのプロセスには、以下のような工程が含まれます。

プロジェクト目標の明確化
プロジェクトの目標を明確にすることは、プロジェクト成功のために不可欠です。目標を明確にすることで、プロジェクトの範囲、スケジュール、予算、品質目標などを設定することができます。

スケジュールの策定
プロジェクトを成功させるためには、明確なスケジュールの策定が必要です。スケジュール策定には、プロジェクトのマイルストーンの設定、作業の依存関係の定義、リソースの割り当てなどが含まれます。スケジュール策定には、ガントチャートの作成や、プロジェクト管理ツールの利用などが用いられます。

予算の策定
予算策定には、プロジェクトのコスト構成要素の明確化、プロジェクトのコスト制御方法の定義、コスト変更要求の承認プロセスの定義などが含まれます。予算策定には、コスト推定ツールの利用や、コスト管理ツールの利用などが必要です。

リスク管理
プロジェクトには、様々なリスクが存在します。リスクを適切に管理することで、プロジェクトの失敗を防止することができます。リスク管理には、リスクの特定、分析、評価、対策の策定などが含まれます。リスク管理には、リスクマネジメントプランの策定や、リスク評価表の作成などが必要です。

品質管理
プロジェクトの品質を確保することも非常に重要です。品質管理には、品質目標の設定、品質基準の策定、品質保証のプロセスの定義などが含まれます。品質管理には、品質計画の策定や、品質管理ツールの利用などが必要です。

以上のことから、計画と見積もりのプロセスは、ソフトウェア システムの提供に必要な範囲、タイムライン、リソース、および予算を明確に理解できるため、プロジェクトの成功に欠かせないことを理解していただけたのではないでしょうか。

プロジェクトの目標と目的がニーズと期待に沿っていることを確認するために、計画と見積もりのプロセスにできる限り多くの利害関係者を関与させることが重要です。

計画と見積もりのプロセスは反復的であり、最終的な計画が現実的で達成可能であることを確認するために、数回のレビューとフィードバックが必要になる場合があります。

3.上流工程エンジニアに求められるスキルとは

最後に、上流工程に関わるエンジニアに求められるスキルをご紹介します。

コミュニケーションスキル

コミュニケーションスキルは全てのビジネスパーソンに求められるスキルと言えます。上流工程エンジニアは、プロジェクトマネージャーや顧客と密接に連携し、要件定義や設計を行います。そのため、コミュニケーション能力が高く、相手の意図を正確に汲み取り、適切なアドバイスや提案ができる能力が求められます。

プロジェクトマネジメントスキル

上流工程エンジニアは、プロジェクト全体の進捗状況や予算管理など、プロジェクトマネジメントにも関わっていくことがあります。ソフトウェア開発プロジェクトを計画および管理するためのプロジェクト管理の原則とツール (スケジューリング、リソース割り当て、リスク管理など) に精通している必要があります。

技術に関するスキルと知識

上流工程エンジニアは、ソフトウェアエンジニアリングの原則、プログラミング言語、データベース技術、プロジェクト管理の知識など、ソフトウェア開発の方法論とツールに関する技術的スキルと知識が必要です。

問題解決スキル

上流工程エンジニアは、顧客からの要望やプロジェクト内での問題点に対して、適切な解決策を提供することが求められます。そのため、ビジネス要件を理解し、ビジネス目標を達成するために、最適な技術的な解決策を提示しなければなりません。

英語力

多くの企業がグローバルに展開しているため、上流工程エンジニアには、英語力が求められることがあります。特に、海外の顧客とのコミュニケーションや海外の技術情報を収集するためには、高い英語力が必要です。

分析的思考

複雑なシステムとプロセスを理解し、データを分析し、情報に基づいた意思決定と効果的な問題解決につながる洞察を引き出す能力も求められます。

適応性

変化する要件、優先順位、およびテクノロジーに適応し、ソフトウェアソリューションが長期にわたって適切で効果的であることを保証する柔軟性および適応性も必須のスキルと言えます。

文章作成能力

上流工程エンジニアは、プロジェクトの初期段階から関わるため、ビジネス戦略や要件定義、設計、アーキテクチャの構築など、プロジェクトの成功に重要な役割を担います。そのため、上記のスキルを総合的に持ち合わせることが求められます。また、テクノロジーは変化のスピードが著しいため、常に新しい技術やトレンドに関する情報をキャッチアップし、アップデートすることに抵抗がない人に向いていると言えます。

まとめ

本記事では、システム開発の流れ、上流工程の各プロセスにおける具体的な内容、上流工程エンジニアに求められるスキルについてご紹介しました。プロジェクトを成功させる上で、上流工程の質の高さがどれだけ重要であるのかを理解していただけたのではないでしょうか。現在要件がなどがまだ定まっておらず、上流工程も任せられるパートナーをお探しの企業様は、是非CMC Japanをご検討ください。CMC Japanは、システムの開発だけでなく、要件ヒアリング、要件定義、システム設計などの上流工程においても支援実績があります。30年にもおよぶ開発実績と深い知識とスキルを兼ね備えた2200人以上のエンジニアをもって、お客様のプロジェクトをサポートさせていただきます。まずは、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。

 

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