実用最小限の製品(MVP)とは?優れた製品を作るための「基本」
目次
はじめに
新しいIT製品を作るには、多くの時間と労力を必要とします。良い製品は、競争において多くの優位性をもたらし、それ自体から収益を得ることができますが、製品のアイデアが現実の世界でどれだけ生き残るか、重要な決断を下す前に検証しないといけません。
MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)とは、チームが最小限の労力で顧客に関する検証済みの学習を最も多く収集できるバージョンのことです。MVPのコンセプトの主な目的の1つは、ユーザーに渡せる実際の製品を作り、それを使っての実際の行動をモニターすることです。何をするか尋ねるよりも、人々が製品を使って何をするかを見る方が、はるかに信頼性が高いのです。得られたデータと観察された行動をもとに、成功する製品を生み出すための次の段階を決定できます。
今回は、MVPとは何か、成功するMVPの決め方、そして、次のステップはどうあるべきかを検証するためのMVPをスムーズに構築する方法について解説します。
MVP(実用最小限の製品)とは?
MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)とは、核となる価値を与え、初期の顧客で検証するために必要な機能のみを備えた製品の最初のバージョンのことです。MVPはユーザーの意見を集め、その製品がユーザーに必要とされているかどうかを判断するために使われます。
また、ユーザーは機能に対するビジョンを提供でき、開発者はユーザーの要望や好みを知った上で製品を変更したり、将来のバージョンアップを計画したりすることができます。
その結果、MVPを採用することで、開発コストの削減と、好ましくない製品を市場に投入することで生じる財務的な失敗のリスクを低減できます。
MVPは、『The Lean Startup(リーン・スタートアップ)』の著者であるEric Ries氏によって広まりました。彼の定義では、最小限の労力で最大限の顧客学習を実現することが重要であるとしています。
MVPは、仮定を検証し、消費者が何を求めているかを学び、より顧客に役立つ製品の反復を構築しながら、時間をかけて拡張できる製品をリリースするために、構築・測定・学習の方法が使用されています。
製品開発におけるMVPの役割
製品開発におけるMVPの主な役割は、次の3点です。
・可能な限り早く製品を市場に投入する。
・製品の本格的な開発に多額の資金を投じる前に、実際のユーザーでアイデアをテストする。
・ターゲットとするマーケットに受けるもの、受けないものを知る。
MVPは、チームが最小限の労力で最大限の顧客学習を行えるようにするための新商品のバージョンです。最終製品の試作に多くの時間と資金を割くよりも、最も基本的な実用版を開発し、わずかなコストで一般に公開することを可能にします。企業が事業を開始すれば、顧客や投資家を集め始めることもできます。
企業の製品チームは、MVPを製造・販売することを決定する場合もあります。
MVPは、製品全体を構築することなく製品アイデアを検証するのに役立つだけでなく、長期的には時間と費用の節約につなげる効果があります。製品が顧客にアピールできるかどうかを早く知ることができれば、市場で成功しない製品に費やす労力と費用を減らせるからです。
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「MVP(実用最小限の製品)」と「MMP(市場投入可能な製品)」の使い分け
「実用最小限の製品(Minimum Viable Product)」と「市場投入可能な製品(Minimum Marketable Product)」を区別することは非常に重要です。
「実用最小限の製品(Minimum Viable Product)」は、学習のための手段です。関係者がデータを分析し、初期の製品を評価できます。開発プロセスの次の段階は、最小限の製品でプロダクトアイデアの検証を得た後、「市場投入可能な製品(MMP)」を作成することです。MMPは、MVPの次に来るもので、ベータテスターや早期導入者からのフィードバックを収集するためのものです。
一方、「市場投入可能な製品(Minimum Marketable Product)」とは、販売するために必要な機能を備えた商品です。製品を市場に適合させる段階で、ユーザーが必要とする最小限の機能を提供し、なおかつ企業が利益を上げられるようにします。
MVP(実用最小限の製品)の種類
MVPの開発には、さまざまなアプローチがあります。
今回は一般的な7つのタイプを紹介します。
ソフトウェアプロトタイプ
MVPの中で最も洗練され、かつ最も良く採用されるものの一つがプロトタイプです。ソフトウェアプロトタイプでは、不可欠な要因のみを使用してソフトウェアを作成します。
MVPソフトウェアの大半では、アジャイル開発が採用されています。この適応性のある方法は、発見と開発、そして継続的な改善のためのチーム協力を伴います。
フリンストン(Flinstone)MVP
フリンストンMVPはマニュアル・ファーストとも呼ばれ、製品がまだ開発中であるにも関わらず、あたかも既に存在しているかのように振る舞うという意味があります。さまざまなサービスベースのビジネスに最適です。
フリンストンMVPで作られたMVP製品は、必要な機能をすべて含んでいるように見えます。一方、利用可能な機能の大半は、手作業で加工・実装されています。このタイプは、高度な技術(機械学習など)を必要とするアイデアを試すのに適しています。
コンシェルジュ(Concierge)MVP
コンシェルジュMVPを利用する場合、サービスや製品の機能開発を一つひとつ手作業で行う必要があります。消費者が困っていることを解決するために、消費者一人ひとりと直接、関わる必要があります。また、顧客からの注文の各ステップを自ら実行し、直接フィードバックを受けることで、最終的な製品のあり方を選択できます。
これは、クライアントの問題を解決する過程を支援するための一時的な解決策です。コンシェルジュMVPの目標は、多くのMVPと同様に、リスクを最小限に抑えながら学習量を増やすことです。
ピースミール(Piecemeal)MVP
ピースミールMVPは、実用最小限の製品という意味で、おそらく最も定義が難しいものです。
ピースミールMVPとは、簡単にいうと、既存のリソースの集合体を使って製品やサービスを提供するローンチを指します。今日の世界では、多くがサードパーティのソフトウェアやプログラムで採用されています。
単機能MVP
単機能MVPは、製品やサービスの最も重要な要素をテストするために設計されたMVPです。
製品の最も重要な機能を検証し、ユーザーがどのように関わっているかを調べ、適切な方法で問題を解決しているかどうかを確認するために使われます。
単機能のMVPは、ベンチャーの重要な仮説を証明し、将来のより良い意思決定に役立てることができます。
先行予約MVP
先行予約MVPの目的は、消費者がまだ生産されていない製品を購入するために支払いをコミットすることを促します。Kickstarterのようなクラウドファンディングのプラットフォームを使って予約注文MVPを作成するのが、最も有名な方法です。企業はこのプラットフォームを使って、作ろうとしている製品、それを作るための能力、集まった資金の分配方法などを説明します。そして、指定された期日までに一定数の予約注文を受けると、商品の生産に取り掛かります。
先行予約MVPは、製品の最も重要な前提である「消費者がその製品にお金を払うか」を確認できます。
顧客像構築MVP
顧客像構築MVPでは、お金にあまりこだわりません。その代わり、潜在的な顧客との接触が中心となります。さまざまな手段で潜在的なターゲット層に接触し(理想的には顧客面談で対面)、まだ存在していないMVPの利点を伝えなければならないのです。
この情報は、MVPをできるだけ早くクライアントのニーズに適合させるために役立ちます。しばらくしてファングループが増えて行けば、次のステップとしてMVPを市場に投入します。この方法は、状況の性質上、通常のインターネット上のアイテムやサービスに対して有効です。
MVP(実用最小限の製品)の特徴
優れたMVPは、エンドユーザーに関する貴重な洞察をもたらすため、MVPの品質によって、収集したデータや情報が信頼に足るものかどうかが定義されます。
MVPは、製品開発の次の段階をサポートするために、5つの基本的な基準を満たす必要があります。
製品アイデアの核を表す
製品アイデアの核となる本質的な機能セットは、MVPで紹介されるべきです。
「ちょうどいい」ことが重要です。MVPが簡単すぎても、複雑すぎても、顧客からの有効なフィードバックは得られません。
アジャイル開発との相性が良い
MVPの最も大きな特徴の1つは、そのMVPが数あるMVPのうちの1つであることです。構築からリリースまで2年かかるようでは、MVPとはいえません。それは、多くの先行コストとリスクを伴う標準的な製品の発売です。
製品が実際にどのように見えるべきかを発見するために、常に多くの小規模なテストを行う必要があるのです。
コストを削減して生産できる
MVPは、最小限の努力で製造可能な製品であることが理想です。特に、運転資金が限られている企業にとっては、非常に大事なことです。
ユーザビリティが高い
MVPの最大の特徴はシンプルであることですが、フィードバックを集めるためには、実際に使える製品である必要があります。MVPは、発売後も製品を使い続けてもらえるだけの将来的な価値を示すことで、最初の顧客や早期導入者を維持できなければなりません。初期の段階で使ってもらえないのでは、実行可能とはいえません。
改善の余地がある
MVPは、今後の開発の出発点となるべきものです。最も重要な機能から着手し、反復することで、幅広いユーザーが便利で価値があると感じられる製品を作ることができます。
MVP(実用最小限の製品)のメリット
MVPが広く使われているのは、それが有利な製品を作るプロセスにもたらす否定しがたい利点があるからです。
ここでは、MVPの6つのメリットを紹介します。
コストの節減
製品を一から作り上げるにはコストがかかります。投資家を驚かせ、クラウドファンディングサイトで現金を求め、企業としてベンチャーキャピタル資金を確保するには、多くの労力が必要です。
幸いなことに、MVPの開発は安価に行えます。企業は、低コストで基本的な製品を迅速に発売できます。最終製品の開発のように、多額の資金を必要としないのです。
より良い最終製品を作れる
MVPは、製品開発プロセスの早い段階で市場からのフィードバックを集めることで、顧客が必要とする機能や特徴を備え、より良い最終製品を構築するのに役立ちます。
早めのリリースが可能
製品開発の全プロセスを経るには、長い時間がかかります。
MVPは、制作から商品化までの時間を短縮します。リーンスタートアップのやり方は柔軟性があります。そのため、チームは迅速に行動し、製品を販売できます。
早期に資金を調達できる
ベンチャーの資本金やクラウドファンディングによる資金調達は、会社を興す上で大きなチャレンジとなります。
強力なMVPがあれば、資金源を確保し、会社を軌道に乗せることが容易になります。
顧客ニーズを把握できる
データ収集とターゲット層の徹底的な調査の重要性は否定できません。
早期導入者のフィードバックは、企業の分析や経験豊富なコンサルタントの最善推測よりも有用です。ユーザーが製品を試すのは、早ければ早いほど良いです。ユーザーがどの機能が一番好きか、どれが一番嫌いか、次のバージョンには何を入れるべきか、という情報をデータで収集できるはずです。
アップデートが可能
現代のめまぐるしく変化する業界のニーズに極めて敏感に対応できることが、MVPを作成するメリットの一つです。
MVPは、顧客から要求されるアップデートや新機能のための余白を確保します。さらに、新しい技術やツールが利用可能になれば、製品はそれらのベネフィットを受けられる可能性があります。
MVPは、混雑した市場において、製品が適切であり続けるために役立つのです。
MVP(実用最小限の製品)構築のステップ
MVP(実用最小限の製品)構築に必要なのは、次の6ステップです。
解決したい課題を把握する
まず何よりも、解決しようとする問題を明らかにしないといけません。それをメモして、MVPでの実現可能性を検証すると良いでしょう。開発する前にコンセプトを検証することは、リソースを節約し、ソリューションが要件を満たしているかどうかを確認するために重要です。
業界の専門家であることは強みですが、解決したい問題が存在するかどうかをまず判断するのが、第一のステップです。
市場調査から始める
アイデアは、必ずしも市場の要求と合致するものではない可能性もあります。そこで、MVPの開発プロセスを開始する前に、企業はそのアイデアが想定されるユーザーの要求を満たしていることを確認しないといけません。
これは、調査によって行うことができます。結局のところ、データが多ければ多いほど、成功する確率は高くなるのです。
また、競合他社がどのような製品を出しているのか、自社の製品コンセプトをどのように際立たせることができるのかにも目を向けてください。
ユーザーフローを描く
MVPの設計段階は非常に重要です。ユーザーフレンドリーな製品の設計を考えるべきでしょう。ユーザーの視点に立った製品を検討する必要があります。
ユーザーフローを定義する前に、プロセスステップを定義すべきです。製品の主目的を達成する手順を明確にすることが重要です。機能を重視するよりも、製品を発見して購入し、あるいは注文を処理して受け取るなどの基本的な操作に焦点を当てます。
これらは、その製品のユーザーが使用中に追求する目的です。これらの手順段階をそれぞれきちんと出してから、各段階の特徴を明記することになります。
機能を定義する
MVP製品開発のこの時点では、フィードバック収集が重要であり、できるだけ早く収集を開始する必要があります。MVPに追加する重要な機能のリストと、潜在顧客の反応に応じたロードマップを構築すべきです。
この時点で、MVPがサポートするすべての機能に優先順位をつけます。それを実現するため、次のような質問をしましょう。
「ユーザーは何を求めているのか?」
「この製品は彼らにとって有益なのか?」
次に、残りのMVP機能のそれぞれに、「優先度高」「優先度中」「優先度低」の3つの優先度を設定します。
MVPを立ち上げる
MVPは、企業が主要な機能に合意し、市場のニーズを把握した時点で作成できます。
MVPは、最終製品の低品質版ではなく、消費者のニーズを満たすものであることに留意してください。つまり、使いやすく、エンターテインメント性があり、ユーザーにとって適切なものを作ると良いでしょう。
常に反復する
MVPを手に入れたら、ユーザーのフィードバックをもとに、反復作業を続けるべきです。フィードバックを収集し、調整をテストし続けることは不可欠です。それが、人々が求め、必要とするものを作る方法を見つけ出す唯一の方法だからです。
目標は、製品と市場の適合性をテストし、意味のある結果を得るために、最も基本的な機能のみを備えたMVPを作成することです。
MVPの作成が始まっても、調査フェーズを終わらせず、両者を並行して進めるべきです。
MVP(実用最小限の製品)開発成功のための留意点
MVP開発を成功させるためには、以下のような点に留意してください。
顧客像を明確にする
第一に、製品が誰を対象としているのかを見極める必要があります。バイヤーペルソナをしっかり理解することから始まり、年齢、性別、社会的地位、行動、興味、経済的な実現可能性など、彼らのすべてを知る必要があります。
第二に、ソリューションがその消費者グループの特定の要求に対応し、彼らの特定の問題を解決するものであるかを確認します。潜在的にポテンシャルな顧客は、製品が特定の価値で提供されていれば、それを評価し、実際の顧客になってくれるでしょう。
最後に、ターゲット層が企業の目的を達成するのに十分な広さであることを確認します。なぜなら、宣伝したい商品のターゲット層が小さすぎて、利益を生み出せないこともあり得るからです。
競合他社を分析する
すでに市場に出ていないMVPを作ることは、事実上不可能です。たとえ革新的なアイデアを持ったビジネスであっても、既存の産業で競争することになるのです。その結果、企業は、競合他社がすでに行っている業界内で、自社の実用最小限の製品をどのように位置づけるかを決定しなければなりません。
これを把握するために、企業は競合調査を行い、自社のメリットとデメリットを検証し、ターゲットとなる市場は誰か、彼らに何を提供しなければならないかを把握する必要があります。
最も価値のある機能から始める
MVPには、製品を市場に投入し、フィードバックを収集し、さらに改良するための最も基本的で重要な機能を含める必要があります。
最も重要な特性だけをリストアップし、それらに集中することから始めることを忘れないでください。そして、MVPを作成し、製品の価値を実証し、市場の反応を測り、新しい機能を追加していきます。
USP(Unique Selling Point)の構築
製品を発売する場合、ほかに似たようなものがないかを確認します。製品と同じ機能を持つ製品に出会うことはよくあることです。しかし、USP※を忘れてはいけません。少なくとも1つの新しい機能(価値)は、ターゲットに製品を選ぶよう説得できなければなりません。
※USP(Unique Selling Point):ビジネスを行うのであれば自社の強みを明確に定義する必要がありますが、自社の強みを集約し、顧客に伝わりやすくしたものが「USP」です。
適切なチームの採用
MVPを作成する際には、思い描く製品を作ってくれる開発チームについても考えなければなりません。
専門家を探し、製品の特徴や要件を理解してもらう必要があるのと同時に、チームの全員がビジョンを理解し、共有できるようにする必要があります。
まとめ
MVPを成功させる鍵は、現在、市場にあるものとは別な製品を作り出すことです。MVPを際立たせる1つか2つの決定的な特徴に集中すべきです。それが、企業を競合他社から引き離すことになるのです。
MVPを作成する際に技術的なサポートが必要な場合は、ITの専門家を採用してサポートしてもらうことができます。
しかし、自社のビジョンやビジネス目的、今後の製品開発方針など、トップダウンの戦略を明確にすることは、社内で決めるべきです。
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