2025年のDXで見えた、4つの大きな変化
2025年の日本企業は、これまで積み上げてきたシステム、組織、人材の限界と向き合わざるを得ない状況に直面しました。経済産業省が長らく警告してきた “2025年の崖” は、抽象的なリスクではなく、現場レベルで具体的なコスト増、障害リスク、事業スピード低下として表れています。同時に、生成AI、AIエージェント、クラウドネイティブ、ゼロトラストといった技術が急速に進化し、IT部門のみならず経営層にも意思決定の変革を迫りました。本稿では、2025年に顕在化したDXの4つの大きな転換点を整理し、次の一歩を考えるための視座を提供します。
目次
「2025年の崖」が現実化——レガシー刷新は待ったなし
ここ数年、多くの企業がレガシー刷新の重要性を理解しつつも、さまざまな理由から抜本的な改革に踏み切れずにいました。しかし2025年は、レガシーを抱え続けることの負の影響が目に見える形で現れています。
ある製造業では、基幹システムの保守費用が過去5年で約1.4倍に増え、追加開発のたびに複雑な回避策や手作業のオペレーションが必要となっていました。結果として、新規事業やサービスモデルの展開が市場より常に遅れ、IT部門だけでなく事業部門からも「ITシステムの制約によって機会損失が発生している」という声が上がるまでになりました。
別の企業では、販売管理システムの改修に6〜9か月を要し、新規キャンペーンの開始時期が競合より1サイクル遅れる状況が常態化していました。このような事例は、2025年にかけて業界横断的に増えています。背景には、旧言語に対応できるエンジニアの減少、特定ベンダーへの依存、老朽化したアーキテクチャに起因する障害リスクの上昇などがあります。
こうした制約を前に、完全刷新ではなく「リスクの高い領域から順次API化・マイクロサービス化する」「実際に使われていない機能を段階的に廃止する」といった、現実的な選択をする企業が増えてきました。2025年は、多くの企業が “変えなければいけない理由”と“すぐに変えられる範囲”を切り分けながら、モダナイゼーションの意思決定を本格化した年と言えます。
AI・LLMがPoCを超え、業務そのものを変え始めた
2023〜2024年の生成AIブームを経て、2025年は「AIを試す年」から「AIで業務を再設計する年」へと進みました。特に特徴的なのは、多くの企業がPoCを繰り返すのではなく、ユースケースを限定してでも実運用へ踏み込む意志決定をした点にあります。
例えば、あるサービス企業では、問い合わせセンターのナレッジ検索にLLMベースの検索エンジンを導入し、オペレーターの応答時間を30%短縮しました。この成果は、膨大な文書をそのままAIに投げ込んだ結果ではありません。情報のクリーニングやタグ付けに時間を割き、回答に至った根拠を常に提示する仕組みを用意し、最終判断は現場に残すという“運用設計”が成功の鍵になりました。
AIの性能よりも、データ品質や業務フローとの整合性が結果に直結する典型的な事例です。
一方で、「社内のあらゆる文書を学習させて万能AIを作りたい」という構想のもと大規模PoCを開始した企業が、半年以内に中断した例もあります。理由は、文書の形式が揃っていないため前処理に膨大な工数が発生したこと、利用シーンが明確でないため価値検証ができなかったこと、社内の権限管理ポリシーと整合が取れなかったことなどです。
2025年に顕在化したのは、AIが「技術的にできること」と「企業として運用できること」の間には大きな溝があり、その溝を埋めるのはデータガバナンスと現場の業務理解、そしてシステム運用の成熟度である、という事実です。
AIは単体で成果を生むものではなく、組織・データ・業務のすべてが揃って初めて価値を生む“業務インフラ”へと移行しつつあります。
IT人材不足が限界に、組織戦略はハイブリッドへ
総務省やIPAのデータが示すように、IT人材不足は2030年に最大79万人規模に達すると予測されていますが、その影響はすでに2025年の企業活動に深刻な形で現れています。
多くの企業が内製化を掲げDX部門の立ち上げを進めたものの、実際には採用競争が激化し、経験豊富なエンジニアを確保することが難しくなっています。社内公募で集まったメンバーは業務知識に優れる一方、クラウドやモダン開発手法への習熟に時間がかかります。プロジェクト数が増えるほど、既存メンバーが “全部追わされる”状態になり、品質・スピードの両方が低下してしまう例も少なくありません。
2025年は、こうした制約を乗り越えるために、「日本側のコア人材+海外の専門チーム+AIツール」の組み合わせを採用する企業が増えました。ある企業では、アーキテクトとPOを日本側に置き、詳細設計・開発・テストを海外拠点に配置した結果、初期開発のリードタイムを40%短縮し、保守・機能追加も同じチームが継続的に対応する “持続可能な体制”を作ることに成功しました。
これは単なる “コスト削減” の話ではありません。DXを継続するには、組織の負荷を平準化し、専門性の高い役割を適切に配置することが不可欠です。2025年は、企業が内製か外部かといった二項対立を超え、最適なチーム構成を柔軟に設計することこそ競争力を生むという考え方が浸透し始めた年でした。
Cloud NativeとZero TrustがDX基盤として定着
クラウド移行はすでに一般的な取り組みですが、2025年は「クラウドに移す」ではなく、「クラウドを前提に設計する」フェーズに移行しました。生成AIやデータ活用の高度化は、スケーラブルでAPI中心のアーキテクチャを前提とした開発を求めています。
ある製造業では、画像検査AIをオンプレミスで運用していたものの、ピーク時の処理能力が不足し、現場でボトルネックになっていました。推論環境をクラウドに移行し、コンテナ化とオートスケールを導入したところ、繁忙期の処理性能を瞬間的に2〜3倍まで向上させながら、閑散期はリソースを自動で抑える運用が可能になりました。
クラウドネイティブ化は、単に便利になるだけでなく、事業継続性とコスト最適化の両立を実現します。
一方で、API化・分散化が進むほど、従来の境界防御ではカバーできない領域が増えます。2025年は、VPNとファイアウォールに依存するモデルから、Zero Trustを前提にしたアイデンティティ管理、ログ監視、アクセス制御の強化に踏み切る企業が増えました。セキュリティは “製品を導入する” 行為ではなく、アーキテクチャ全体をどう設計し、運用をどう回すかという経営判断に近いテーマへと変わっています。
クラウドネイティブ化とゼロトラスト化は、AI・データ・業務のデジタル化が進む2026年以降の基盤を支える “前提条件” となりつつあります。
まとめ
2025年は、日本企業のDXが “やるべきことが明確になった年” と言えます。レガシー刷新の遅れ、AIの本格活用、人材不足、アーキテクチャの再設計——いずれも「いつか取り組むべきテーマ」から「すぐに取り組まなければ事業成長の制約になるテーマ」へと変わりました。
2026年以降の企業競争力は、この現実を踏まえたうえで、
- 中長期のレガシー刷新ロードマップ
- ハイブリッドなチーム・パートナー戦略
- データ基盤とセキュリティを含むアーキテクチャ再構築
をどれだけ早く描き、着実に実行できるかに大きく左右されます。
もし、レガシー刷新、AI活用、クラウドネイティブ化、組織設計などで課題がございましたら、CMC Japanまでお気軽にお問い合わせください。貴社の現状と優先度に合わせ、現実的なステップに落とし込むお手伝いをさせていただきます。
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