レガシーシステムとは?どうして無視してはいけないのか?
はじめに
DX(デジタルトランスフォーメーション)の最大の障害は、レガシーシステムです。
レガシーシステムとは、古くなったシステム、技術、ソフトウェアプログラムのことです。レガシーシステムを維持しようとすると、メンテナンスコストや人的リソースなど、さまざまなコストが発生します。
しかし、レガシーシステムの最も重要な問題は、IT戦略やビジネス目標を達成できなくなることです。DX(デジタルトランスフォーメーション)とAIの時代に突入し、最先端のテクノロジーを備えた今、企業がどれだけ適応できるかによって、ITシステムは「ビジネスを成長させる資産」にも「2025年の崖」への障害にもなるからです。
本コラムでは、レガシーシステムを維持するリスクやコスト、モダナイゼーションを行うメリットなどについて解説いたします。
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レガシーシステムとは?
レガシーシステムとは、古くなったシステム、技術、ソフトウェアプログラムのことです。古くなってはいるものの、設計時の機能を維持しているため、未だに組織で利用されています。
自動的にサポートやアップグレードができなくなった技術(コンピュータシステム、プログラミング言語、ソフトウェアアプリケーション、特定のプロセス)は、レガシーシステムとみなされます。
したがって、古いものでなく、たとえば1年前のITシステムであったとしても、上記の基準を満たしていればレガシーシステムです。
一般的に、古くなったシステムはサポートやメンテナンスが行われず、新たな開発の可能性も限られています。しかし、企業がその重要な機能に依存している以上、単純に置き換えることはできません。これらのシステムは、ある程度の効果はあるものの、維持費がかかり、運用には難しいIT人材が必要となり、イノベーションの可能性を制限してしまいます。
レガシーシステムの特徴
レガシーシステムには、次のような特徴があります。
・大規模・複雑
・ドキュメントが不足していたり、信頼性に欠けることが多い
・組織にとって極めて重要である
・サポート、メンテナンスあるいはアップグレードが受けられなくなる
・進化しにくい
・古い技術に基づいており、今日のより高度なソリューションとは互換性がない
ITシステムは、経済、新しい法律、新技術、市場の状況、経営、組織再編などに適応するために、絶えず変化しています。システムの調整や変更は、時間の経過とともに異なる担当者によって頻繁に実施されるため、IT管理者がレガシーシステムの全体像を把握して、今後、どう扱うべきかを決定することは困難になっています。
なぜレガシーシステムを使い続ける会社があるのか?
このように致命的な課題をいくつも抱えるレガシーシステムを未だに使い続ける企業があるのは、なぜでしょうか?そこには、6つの理由があります。
機能
1つ目の理由は「機能」です。つまり、レガシーシステムが、まだビジネスニーズを満たしている、または組織にとって極めて重要なシステムであるためです。
コスト
レガシーシステムを維持するには時間の経過とともにコストがかかりますが、新しいシステムにアップグレードするには、財政的にも人的にも多額の先行投資が必要です。このコストを支出できないことが2つ目の理由です。
不安感
人は、システムに限らず、慣れ親しんだものから新たなものへ変わるのを恐れ、嫌うものです。
組織全体、あるいは1つの部門でも、新しいシステムに移行することは難しく、社内でも反感を買うことがあり、これがネックとなって刷新が進まないことが多々あります。
スキル
レガシーソフトウェアは、古いプログラミング言語で書かれていることもあり、移行に必要な専門知識を持った人材を見つけるのが困難であることも理由の一つです。
技術仕様
レガシーシステムの資料やガイドが限られていたり、オリジナルの開発者が組織を離れていたりすることもあります。
レガシーシステムからのデータ移行を計画し、新システムのニーズの幅を定義することは、困難を伴うため、マイグレーションを阻みます。
セキュリティ
データの損失を避けるためには、すべてのデータを適切に移行する必要があります。
これは、新しいシステムに切り替えたいと考えている企業にとって、高いハードルとなります。
レガシーシステムを維持することのリスクと問題点
レガシーシステムは、上記のような理由から、多くの企業が「壊れていなければ直さない」という考えで使い続けています。
しかし、レガシーシステムを維持すべきかどうかを検討する際には、以下のような多くのリスクや問題を考慮する必要があります。
互換性
レガシーシステムは、新しいシステムやテクノロジーとの互換性がない場合があります。
その結果、レガシーシステムを採用している部門は、成長にも欠かせない新システムの機能をすべて利用することができません。
サポート
もしも、ベンダーが、自社で使用しているシステムやソフトウェアの販売やサポートを終了していれば、問題が発生したときにサポートしてくれる可能性は低いでしょう。それは、万が一のことがあった場合に、復旧に時間がかかり過ぎたり、最悪の場合、復旧できない可能性を意味します。
データ
大半のレガシーシステムは、最新のシステムと連動するように設計されていないため、データを連携することができません。
セキュリティ
セキュリティホールは、サポート、アップデート、メンテナンスが行われていないことや、古いセキュリティ手法や基準を使用していることなどにより生じます。このため、これらを行いづらいレガシーシステムは、セキュリティ侵害の原因となります。
その結果、自社のセキュリティポリシーの要求事項を遵守することが難しくなる場合もあります。
生産性
レガシーシステムは、時間の経過とともに動作が遅くなります。
その結果、パフォーマンス、効率、生産性が低下する可能性があります。
メンテナンス
レガシーシステムを維持するためには、メンテナンスの必要がありますが、すでにベンダーの公式なサポートが切れていれば、人的コスト・金銭的コストともに増大します。
しかも、レガシーシステムはいずれ、マイグレーションして新たなシステムに替わるものですので、そこにコストをかける意義は薄いでしょう。
競争力
最新のアプリケーションなしに、顧客のニーズを満たしたり、独創的な新製品や新サービスを市場に投入したり、感動を与えるようなカスタマーエクスペリエンスを実現することは事実上、不可能です。
言い換えれば、レガシーシステムを維持することで、上記を可能にする最新システムを導入している競合他社に対する競争力が下がるということです。
レガシーシステムを維持するためのコストは?
レガシーシステムを維持することは一見、より安く、より簡単な方法のように思えるかもしれません。何かを変える必要はなく、既存のレガシーインフラを継続するだけだからです。
しかし、ある米国のレガシーシステムの保守コストに関する調査によれば、銀行や保険会社では、古いシステムの維持にIT予算の最大75%を費やしているといいます。企業は過去のシステムを維持することと、SaaSやPaaSなどの最新のシステムに更新することの財務上のリスクを比較検討する必要があるでしょう。
サポート、維持、導入にかかるコスト以外にも、レガシーシステムがIT部門にもたらす負担、データベースの維持やアップグレード、データのセキュリティ確保、システム自体の頻繁なダウンタイム、カスタマーエクスペリエンスの低下など、レガシーシステムがもたらす隠れたコストに、企業は悩まされることになります。
レガシーシステムのモダナイゼーションとは?
システムのモダナイゼーションとは、業務効率の向上、テクノロジーの限界の克服、顧客の期待への対応、新しいテクノロジープラットフォームの導入・統合を促進するために、システムを最適化するプロセスのことです。
必ずしもシステムをすべて捨てるわけではなく、適当な改善を行うという意味を持っています。
レガシーシステムのモダナイゼーションの最も基本的な目的は、オペレーションの改善とシステムのパリティ※を確立することです。最適な結果は、パフォーマンス、柔軟性、革新性の大幅な改善です。
システムのモダナイゼーションは、新しいテクノロジーと互換性のない、古くて高価なテクノロジーを維持するか、それともビジネスの目標に最適なプラットフォームを利用するために、インフラの大規模な見直しを行うか、という選択を迫られたときに始まります。
※パリティ(parity)…データの誤りを検出すること。
レガシーシステムモダナイゼーションのメリット
レガシーシステムをモダナイゼーションすることによって得られる主なメリットは、以下の6点です。
技術基盤を構築できる
投資を行う新しいシステムは、その後の会社の基盤となります。
適切なシステムの導入と、これに伴う業務フローの整備によって、企業の潜在能力は最大限に発揮され、それがビジネス目標の達成につながります。
また、システムのモダナイゼーションにより、最新のソリューションを提供できるようになり、競合他社を凌駕することも可能になります。
IT部門のリソースを節約できる
IT部門では、レガシーシステムのモダナイゼーションにより、効率的でインテリジェントな作業ができるようになります。
このため、手動での統合や問題の修正のために、時間を費やす必要がなくなります。
アジャイルビジネス開発が可能になる
アジャイルとは、不安定で不確実な環境に対処し、最終的には優れた成果を上げるための戦略のことです。
レガシーシステムを最新のシステムに置き換えることで、ビジネスの拡大と成長に備えることができます。
さらに、最新のテクノロジーに対応することで、ビジネスの柔軟性と革新性を重視する企業文化も育まれます。
新しい技術を活用できる
ローカルのオンプレミス・データセンターから、クラウドマイグレーションのソリューションに移行した場合、データセンターを維持するためのコストを削減できます。
クラウドマイグレーションのデータソリューションを活用すれば、よりスケーラブルで管理しやすいサービスを手頃な価格で利用できるようになります。
ビッグデータを利用できるようになる
レガシーシステムでは、貴重なデータへのアクセスや活用が妨げられてしまいます。
ビッグデータを活用するためには、データベースの移行と最適化が不可欠です。
生産性を向上できる
チーム全体の生産性を向上させることは、レガシーシステムをモダナイゼーションすることで得られる重要なメリットの一つです。
クラウドマイグレーションを行い、クラウドコンピューティングを活用することで、日々の活動の効率化を図ることができます。
クラウドマイグレーションについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
レガシーシステムのモダナイゼーションへの取り組み
ガートナー社は、以下のモダナイゼーションの7つの選択肢において、導入のしやすさを基準に評価を行っています。
簡単であればあるほど、システムやビジネスプロセスに与えるリスクや影響は少なく、難しいほどリスクや影響が大きくなります。
カプセル化する
カプセル化とは、プログラミングにおいて関連するデータの集合と、これに対する操作を一つのオブジェクトにまとめることです。
アプリケーションのデータや機能をカプセル化し、APIを介してサービスとして利用できるようにすることで、アプリケーションの機能を活用・強化することができます。
リホスト(Rehost)
アプリケーションコンポーネントを、コードや機能、特長を変えずに、別のインフラ(物理、仮想、クラウドマイグレーション)に再展開するリホストを行います。
リプラットフォーム(Replatform)
新しいランタイム・プラットフォームに移行する際に、コードの構造や機能は変更せず、コードを若干変更するリプラットフォームを行います。
リファクタリング(Refactoring)
技術的負債を解消し、非機能的な品質を向上させるために、既存のコード(外観上の動作は含まない)を再編成し、最適化するプロセスであるリファクタリングを行います。
リアーキテクト(Rearchitect)
新しいアプリケーション・アーキテクチャに適応させたり、新しく改良された機能を利用したりするために、コードを大幅に変更するリアーキテクトを行います。
リビルド(Rebuild)
スコープと仕様を念頭に、アプリケーションのコンポーネントを一から再設計または再構築します。
リプレース(Replace)
新しい要件やニーズを考慮しながら、古いアプリケーションを新しいものに置き換えます。
適切なモダナイゼーションアプローチを決定する前に必要な検討事項
最適な行動を選択するためには、まず自社のオペレーションを詳細に分析する必要があります。
米国のクラウドコンピューティング企業であるラックスペース社(Rackspace Technology, Inc.)によると、評価プロセスの一環として、次のような点を考慮して評価する必要があります。
作業量
ソフトウェアとアプリケーションを監査し、ビジネス価値、重要性、モダナイゼーションの機会を特定します。
作業量を企業の長期的な戦略と照らし合わせて検討します。
計画化
インフラ構造の要素、パフォーマンス、ROIを検証し、最新のテクノロジーがどのような点でより良い結果をもたらすかを確認します。
金融
支出を調査し、予算の問題点や、将来の計画を立てながら現在のオペレーションをサポートするために、リソースをよりよく配分する方法を明らかにします。
リスク
事業中断の可能性、それに伴うビジネスプロセスや組織文化への影響を、レガシーシステムのモダナイゼーションプロジェクトの目標と照らし合わせます。
サービスが停止しているシステムや、サポートスタッフが限られているシステムの維持管理など、レガシーシステムを維持するリスクを考慮します。
運営
モダナイゼーションのコストと期限を計算する際に、新しい知識や技能、トレーニング、およびプロセスを考慮しなければならないかどうかを判断します。
セキュリティ
データの損失、停止、または暴露を避けるために、モダナイゼーションの前、中、後にシステムを保護するための対策を計画します。
組織は、セキュリティ計画において、新しい環境における法律や業界のコンプライアンス規制の遵守を確認する必要があります。
システムモダナイゼーションを行う際の注意ポイント
会社にとって極めて重要なシステムのアップグレードには長い工程がかかり、慎重に実行する必要があります。
スムーズにモダナイゼーションを進め、会社全体に影響を与えるためには、以下の6つの準備を行っておく必要があります。
レガシーシステムの状況を今一度、確認する
すべてのレガシーシステムが、必ずしも 「古い」「時代遅れ」なシステムであるとは限りません。
レガシーかどうかを判断する際には、ほかの要素も考慮する必要があるのです。
既存のシステムと、近い将来、発生する可能性のある懸念事項を特定するために、設置されているすべてのシステムを評価する必要があります。
自社の経験レベルを把握する
アプリケーションモダナイゼーションの最初のステップは、自社の経験度を見極めることです。
特に、レガシーシステムを移行したことがなく、まだ成長段階にある企業であれば、同じアプリケーションの複数のインスタンスや、同じビジネスサービスを実行する別個のアプリケーション、あるいは必要のないアプリケーションや活用されていないアプリケーションなど、簡単な作業から始めましょう。
「シンプル」を優先する
レガシーシステムは非常に複雑な構造をしているため、期待通りのパフォーマンスが得られないことがよくあります。
システムのアップグレードは、設計や機能の観点から、少ないほど効果的です。
まずは、必要な要素だけを導入することから始めましょう。
戦略を立てる
スケジュール、予算、ビジネス要件に関するデータを収集し、どこでモダナイゼーション活動を行えば最良の結果が得られるかを決定します。
モダナイゼーションの準備プロセスのこの段階では、ITチームに加えて、データ、セキュリティおよびコンプライアンスの各チームが参加する必要があります。
未来のための資料を作成する
モダナイゼーションしたシステムが、時間の経過とともにいずれまたレガシーシステムとなってしまうのを避けるために、一連のコーディング標準と内部プロセスを導入(または他社が採用しているベストプラクティスを適応)します。
資料化されたシンプルなコードにより、製品の理解、拡張、保守が容易になります。
モダナイゼーションは継続的なプロセスである
システムのモダナイゼーションは、一度、対応したら終わりというものではなく、ITとビジネスのあらゆる側面に影響を与える継続的な活動でなければなりません。
システムは常に、最新で、最も効率的で、豊富な機能を備えた、利用可能な最新のインフラとして維持する必要があります。
技術の進歩に伴い、修正や改善が可能な領域は常に存在するため、モダナイゼーションは継続的なプロセスであることを認識し、上記の条件を維持しましょう。
まとめ
DX(デジタルトランスフォーメーション)を目指しているのなら、レガシーシステムのマイグレーションは避けて通れません。
ただ、このイノベーションを実行するには、「なぜ、どのように、どこで、いつ」を明らかにする必要があり、さらに、自社についての深い理解も必要です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、決して一人の経営者だけの孤独な旅ではありません。すべての社員の協力が必要なものです。DXをサポートするために経営者ができることは、革新的な文化やアイデアを社内で推進し、奨励することです。そうすれば、来るべき時が来たときには、全社的に準備が整っているでしょう。